障害児教育の充実を願う親の会主催
2002年11月24日
フィンランドの障害者ケア
北海道浅井学園大学人間福祉学部教授 山田眞知子

I. 北欧型福祉国家
福祉国家とは、国(社会、行政)が国民の幸せ(福祉)に責任を持つ国を指します。責任をとるために行う政策を社会政策といいます。すべての先進国といわれる国は福祉国家であり、どの程度国民の幸せに責任を取るかによって、福祉国家は、一般に(1)リベラル型(アメリカ型),(2)コーポラティブ型(ヨーロッパ大陸型)、(3)ユニバーサル型(北欧型)の3のタイプに分けられます。
北欧型福祉国家といわれる国は、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークとアイスランドの5国です。
北欧型福祉国家は次のような特色を持っています。
1. 他の民主主義諸国よりも、国家が国民の幸せに責任を持つ割合が大きい。
2. 所得保障は、すべての市民に対する平等な給付と労働所得に基づく給付によって成り立つ。
3. サービス国家としての特徴がある。サービスは主に税によって、サービスを必要とする市民に供給される。サービスの提供は自治体の責任である。そのため地方公務員数が多い。
4. 市民の平等ということが、重要な価値と考えられており、それが他のどの国よりも実現されている。
5. 高度の普遍主義を基盤としている。これは、すべての市民が、市民として基本的な社会保障の給付とサービスを受けられることが原則になっている。女性の70%が就労しており、社会政策は個人の権利に基づいているので、女性は夫に依存していない。
6.
公的に所得保障とサービスをまかなうので、国民総生産に占める社会保障費の割合が高く、税金も高い。ただし、所得や生活水準の格差が他の国と比較して小さい。
北欧諸国の社会保障は
1. 雇用、労働、住宅、交通、教育などの幅広い社会政策、
2. 所得保障政策(年金、給付など)
3. 社会福祉と保健のサービス
に分類され、所得保障は国、サービスは自治体というように、役割分担がされています。
II. 社会サービスについての考え方
北欧では社会サービスは次のように考えられています。社会サービスとは、具体的には、個人が障害、疾病に起因する不自由さにもかかわらず、自立して日常生活を送れるように支援するためのサービスと考えられています。
これは、つまり、「ケア」にかかわるサービスということです。自立については、「社会や他人に頼らず生きるということではなく、自己決定権をもって生活すること」を意味します。
北欧の社会サービスは、次のように規定されます。
1. 個人が必要とするサービスで、その利用は個人の自由意志に基づき、公権力を用いて強制的に執行することはできない。
2. 純粋な営利的なケアサービスは社会サービスの範疇にふくまれない。社会サービスは、それを必要とする人が、所得に関係なく受けることができるものであり、料金を支払うとしても、全額を支払う必要はない。
3.
インフォーマルなサービスは、社会サービスの分野に含まない。それは、社会サービスにおいて、ケアを提供する人と受ける人は対等な関係であると考えられるからである。社会サービスはインフォーマルなケアの負担と束縛を軽減するものである。
北欧の社会サービスについては、3つの明確な特徴があります。それらは次のとおりです。
1. 高齢者ケアと保育のサービスが整備されていること。
2. 中流階級が公的サービスを利用しており、これは女性の利益を反映していること。
3. 自治体にサービスの責任があり、地方分権が進んでいること。
III. サービスにおける自治体の役割
地方自治について
基礎自治体は、基本的に、教育、文化、社会福祉、保健、環境、土地利用、都市計画、エネルギー供給、地域開発、消防、防災など、住民に対するすべてのサービスに責任を持ちます。住民の生活にかかわる幅広いサービスを行っているため、地方議会の議員定数は大きく、住民代表による議会民主主義を重視する伝統があります。
地方自治体数は448(2002年1月現在)です。首長は直接選挙ではなく、議会が任命します。5つある県は国の出先機関で、議会をもちません。知事は大統領任命の国家公務員です。国会議員と地方議員は兼任でき、共に任期は4年です。地方議員は、ほとんど無報酬に近いボランティア的な名誉職です。
国会議員と地方議員のほかに、市民はヨーロッパ連合(EU)議会議員も選出します。フィンランドの選挙権と被選挙権は18歳になると獲得できるので、18歳(高校3年生)に達すれば、国会選挙および地方選挙において立候補も可能で、現実に行われています。
自治体の職員数は約41万人ですが、その内訳は、保健事業28.6%、社会福祉27.4%、教育文化26.6%で、この2分野で、合計82.6%を占めています。自治体の予算の44%が社会福祉保健費、23%が教育文化費と、全体の67%をこの2分野で占めています。これはサービスを公的に供給しているためです。
なお、北欧では地方分権が高度に発達しています。自治体は地方税額を定めることができ、それが歳入の52%を占めています。国は教育文化、社会福祉・保健については、一人当たりの計算に基づいた包括補助金を交付し、自治体は、それを法律に定められている範囲で自由に使用することができます。
女性の社会参加
フィンランドは女性の社会参加が非常に進んでいます。女性の70%近くがフルタイムで働いています。女性の議員数は、1950年に15%、1950年14%、1970年22%、1980年26%、1990年32%というように増加して、1999年は37%です。地方議員についても約40%は女性で、都市部では半数以上が女性という場合もあります。
16名いる閣僚の約半数が女性で、彼女らは、第二財務大臣(税担当)、産業商業大臣、二人の社会保健大臣、環境大臣、文部大臣、労働大臣を占めています。大臣や委員会など、公務の直接選挙によらない役職における女性の割合については、男女均等法(1987年施行、1995年改正)でクオーター制度が定められており、40%は両性を確保しなければならないことになっています。また、フィンランドでは、2000年に歴史上初めての女性大統領が選出されています。
女性の議員が多いということは、福祉政策に大きな影響があります。
IV. 障害者の権利
重度障害者のサービスと支援に関する法律は、当事者も法案作成に参加し1997年に制定され、1988年に思考されました。この法律には次の諸権利が障害者に保障されています。自治体にサービスの供給義務があります。
1. 移送サービス(フリーの時間のために月に最低18回)
2. 通訳サービス(重度の視聴覚障害者は年240時間、その他の障害者は年120時間)
3. 住宅改造と住宅に付属する福祉機器
4. サービスつき住宅の提供
このほか、自治体は個人付ヘルパーのサービスを供給することができます。個人ヘルパー(パーソナルアシスタントともいいます)は、障害者自身が雇用主となり、雇用主の義務は果さなければなりませんが、雇用と解雇の権利があります。障害の程度によって違いますが、一般に成人の重度障害者は40時間前後、呼吸器をつけている障害者の場合は24時間ヘルパーを雇用することも認められています。
また、知的障害者、精神障害者にはそれぞれの特別法で権利が保障されています。
V. 家族のための社会保障 一障害をもった児童に対するどのような支援があるのか−
1.
出産・育児については次のとおりです。
産休・育児休暇は263日で、産休が105日、育児休暇は158日である。育児休暇は父が取ってもよい。このほか出産に関して、父親休暇があり、3週間まで出産・育児に関して父親は休暇をとれる。これらの休暇の間は収入の約70%が保障されている。出産・育児休暇後は、子供が3歳になるまで、無給ではあるが、職を失わずに育児休暇を延長することができる。その間は、家庭育児手当を受けることができる。今日では殆どの父親が出産に立ち会うような文化が成立している。
2.
保育については次のとおりです。
1996年に保育法が超党派の女性議員の協力で改正され、すべての6歳児ほ保育の権利を有するようになった。つまり、保育を望む親には、自治体が保育を提供しなければならない。また、2000年からすべての6歳児には、就学前教育が行われるようになった。保育時間は原則として10時間で、不規則な勤務時間の仕事をする親のためには、24時間保育も用意されている。保育は朝食から始まる。保育児童と保育者の割合は、0−3歳児の保育は12:3、3−6歳児が21:3、統合保育(障害のある児童5+健常児7)では12:4+必要なセラピストと定められている。
3.
児童に関する所得保障やサービスとしては、次の手当てがあります。
−出産・育児手当、父親手当て(6−12日)
−児童手当(17歳になるまで)
−養育手当て(もし養育手当てを支払うべき親が支払いを放棄している場合)
−住居手当
−生活保護
−児童家庭保育手当て
−10歳以下の児童が病気になった場合4日間仕事を休む権利がある。
−15歳以下の児童の保健センター診察料は無料、18歳以下の児童は7日以上の入院料が無料、19歳以下の児童の保健センター診療所における歯科治療も無料
−高校までの無料の給食
4.
障害のある児童と家族に対する支援
生まれた子供に障害があることが発見されると直ちにチームができて、子供のリハビリと家族に対する支援が開始されます。行政のチームが両親と一緒に、リハビリの計画を立てます。チームには責任者が指名され、家族と行政の間の連絡に責任を持ちます。
障害のある子供は、他の子供と同様の保育の権利があります。一般的に、統合保育の方向にありますが、特別保育が行われる場合もあります。保育料は他の児童と同様ですが、保育所で受けるリハビリ(必要に応じてセラピストがリハビリを行う)、個人ヘルパーについては無料です。保育が保障されており、送迎もあるので、両親は働くことができます。
障害または疾病のある児童の両親には、国から経済的な補助がありますが、その主なものは、児童介護手当てと特別手当です。児童介護手当ては児童の介護が負担である場合、特別手当は病院などに児童を連れて行く負担のためです。
障害児に関する福祉機器は無料で提供されます。
VI. リハビリテーションの位置づけ
リハビリテーション(以下リハビリ)は、北欧の社会福祉・保健政策において非常に重視されています。その理由は次のとおりです。
1. リハビリよって、個人のもつ障害等の症状が改善されるという効果があり、たとえ改善が明確にみられなくとも、個人の生活の質が上がる。
2. 効果があれば社会復帰が可能になり、国民経済にプラスになる。
3. 特に職業生活にある市民にリハビリを行うことによって、年金生活への早期移行を防止でき、年金保障を軽減できる。
フィンランドのリハビリテーションは保健行政、社会福祉行政、社会保険院、労働行政、民間保険会社などが提供しています。障害者についていえば、重度障害者のリハビリは国が責任を持ちます。医療リハビリのほかに、適応訓練があります。適応訓練は、本人や家族が障害を持って生きるということに適応することを目的とし、障害を持って生まれた子供の家族、または中途障害者とその家族に、グループで行われます。
フィンランドには保健センターや病院のほかに、リハビリテーションサービス提供を専門とする施設があります。このうち本格的なものは約60箇所、その他の小規模、軽いリハビリ専門施設をあわせれば、100箇所近くあるといわれています。社会保険院が運営する2施設のほか、民間のNPOが運営しています。
リハビリと並行して、自治体は住宅改造(福祉)と福祉用具支給(保健)のサービスも行っています。また国(社会保険院)は教育や職業生活にかかわる福祉機器(コンピューター等)を支給します。
リハビリ専門職はチームをつくり、顧客のケアにあたります。処方箋は医師の担当ですが、PT,OTではそれぞれ独立し、専門分野を担当します。障害児には手厚いリハビリが供給されますが、障害児のいる家族にとって一番密接な関係を持つのは、医師ではなく、週に1−2度会うPTでしょう。